3月25日(金)、26日(土)、国立能楽堂で『特別企画公演〈復興と文化〉特別編〜老女の祈り〜』が行われる。国立能楽堂では、東日本大震災以来3月に〈復興と文化〉という企画公演を行っており、震災から5年目を迎える今年は東北の名取(現宮城県)が舞台となる「名取ノ老女」を採り上げる。
別名「護法」「名取嫗」と呼ばれるこの曲は、能の古作の規範曲として「〈護法〉型」という概念が提出されるなど能作史上重要な位置を占める曲でありながら、寛正5(1464)年に音阿弥が演じた記録以後は上演されることが稀で、明治に入り廃曲となっていた。平成5(1993)年に梅若六郎(玄祥)氏が自身の会で「護法」として狂言方を中心に復活させ、その後も何度か上演を試みているが、本格的な能としての復曲上演は今回が初となる。
この公演に先がけ、昨年12月15日に制作発表記者会見が行われた。出席者は梅若玄祥、大槻文藏、宝生和英、金剛龍謹、小林健二、小田幸子の諸氏で、会見ではそれぞれの立場から上演に向けた意気込みを語った。
今回の上演にあたり舞台となっている宮城県名取市を訪れたという初日のシテ(名取ノ老女)を勤める梅若玄祥氏は、「(東北の)〝いま何もない〟という状況にショックを受けた」といい、「美しい場所で悲惨なことが起きた。そのもともとの美しいものが目に見えるように演じたい」「〈祈り〉はもちろんあるが、今を生きている方へのメッセージになれば」と話した。26日のシテを勤める大槻文藏氏は、「前半の見どころは名所教え」とした上で、「この能は熊野信仰がすべてのベースになっている。信仰に支えられている老女が、生き生きとした姿で生きている、というのを描きたいと思っている」と語った。また、同曲でツレを演じる宝生和英氏、金剛龍謹氏もそれぞれ「宝生流のプライドを持って〝宝生流らしさ〟を出せるように臨みたい。(宝生)」、「装束や面も変える予定で、宝生と金剛とでかなり違ってくると思う。そのあたりも見て頂けたら(金剛)」と話していた。
監修・台本作成を行った小林、小田両氏によると、この度の復曲にあたり台本を大幅に見直し、時間についても原作は2時間ほどかかるものを1時間15分程度に凝縮させてたという。また、会見では物語の舞台となっている名取市での上演の可能性についての質問があり、玄祥氏は「もちろんやりたい」「復曲は長く、繰り返し演じられることが大事。今回は異流共演だが、今後色々な形で上演できるようにしていきたい」と、今後の上演についても前向きなコメントをしていた。
ひたすら神に祈りを捧げる老女の姿、そしてその祈りが通じるという奇瑞は、震災を経験した私たちに宗教的救済とは何か、〈祈り〉とは何かを問いかける。老女による〈名所教え〉と〈熊野の本地〉の物語、神楽舞と神の出現など、新たな魅力をまとった同作に期待が高まる。なお、今回の公演では「名取ノ老女」とともに、東北平泉に残る「毛越寺の延年〈老女〉」を同時上演する。
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「名取ノ老女」あらすじ
熊野三山の山伏が陸奥行脚の暇乞のために本宮に通夜したところ、名取の里に住む老巫女に信託を届けよとの霊夢を見る。この老女はかつて熊野に年詣をしていたが、今は年老いて詣でることができず、名取の地に熊野三山を勘定して祈りを捧げている者で、山伏は名取の里で老女に対面し、霊夢で授けられた虫食いのある梛の葉を渡す。そこには熊野の神詠「道遠し年もやうやう老いにけり思ひおこせよ我も忘れじ」とあり、あまりの有り難さに老女は涙する。老女は勧進した熊野三山に山伏を案内し、「熊野の本地」を物語る。そして法楽の舞をはじめると、熊野権現の使役神・護法善神が颯爽と現れて、老女を祝福し、国土安穏を約束して去っていく。
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公演は、3月25日(金)が6時半、26日(土)が13時開演で、毛越寺の延年「老女」藤里明久、復曲能「名取ノ老女」名取の老女・梅若玄祥(25日)、大槻文藏(26日)、護法善神・宝生和英(25日)、金剛龍謹(26日)、孫娘・松山絢美、熊野山伏・殿田謙吉、囃子・竹市学、鵜澤洋太郎、國川純、小寺真佐人ほか。
入場料は、正面=6700円、脇正面=5600円(学生3900円)、中正面=4400円(学生3100円)。チケット発売は2月9日(火)午前10時から。国立劇場チケットセンター☎0570─07─9900ほか。
問合せ
国立能楽堂
☎03─3423─1331(代)
特設ウェブサイトhttp://www.ntj.jac.go.jp/nou/27/natorinoroujo/natorinoroujo.html