12月7日、第38回『観世寿夫記念法政大学能楽賞(以下「寿夫賞」)』受賞者が発表され、演出家で明治学院大学教授の岡本章氏と笛方森田流の松田弘之氏が選ばれた(選考委員は増田正人、廣瀬克哉、みなもとごろう、松本雍、西野春雄、観世銕之丞、山中玲子、宮本圭造の諸氏)。なお、本年度の『催花賞』は該当者なしだった。贈呈理由と略歴は以下の通り。
岡本章氏:錬肉工房主宰、芸術監督として数多くの舞台作品を発表して来た氏は、能の肉体鍛錬法を取り入れた独自の演技メソッドを確立し、言葉と身体の関係を問い直す斬新な取り組みを通じて、能のもっとも本質的な精神を体現する演劇活動を長年にわたって続けてきた。特に、2014年の現代能「始皇帝」、2015年の決定版「オイディプス」はその集大成ともいうべき見事な成果である。
[略歴]演出家。錬肉工房主宰・芸術監督。明治学院大学文学部芸術学科教授。昭和24年奈良生。早稲田大学第一文学部演劇専修卒業。大学在学中に能楽サークル観世会、学生劇団自由舞台に所属、46年錬肉工房結成。平成元年より「現代能楽集」のシリーズをはじめ、現在まで13作品を上演する。
松田弘之氏:東京の森田流笛方を代表する一人として活躍する氏は、師匠であった故田中一次の感性の鋭さを受け継ぎながら、長年にわたり研鑽を重ね、独自の芸域を切り開いてきた。情緒豊かで美しい旋律によって戯曲の中に入り込んでいく氏の演奏は、古典・新作を問わず、優れた舞台成果に寄与している。
[略歴]笛方森田流。昭和28年生。故田中一次ならびに故森田光春に師事。国立音楽大学卒業。舞囃子「安宅」で初舞台(25歳)、初能は「経正」(27歳)。昭和56年「翁」、59年「石橋」、61年「道成寺」「猩々乱」、平成5年「清経・恋之音取」を披く。既に「鷺」や「卒都婆小町」「鸚鵡小町」「姨捨」「檜垣」などの大曲・秘曲も披演し、東京の森田流の代表的演者として活躍。古典を始め、新作・復曲にも積極的に参加、海外公演にも多数参加している。国立能楽堂養成課講師。日本能楽会会員。
※この記事は『能楽タイムズ』1月号より転載しています。